数年前、恵比寿のウェスティンホテルで
とあるパーティーに招んでいただいて、
歌ったことがありました。
その時、一緒の控え室に
マジシャンの方がいらしたんです。
そのマジシャンの方の付き添いでいらしていたのが
S氏でした。
休憩時間に、世間話をしていた時のこと…
S氏が北海道の出身だ、と教えてくれました。
「私、毎年、苫小牧に
歌いに行ってるんです!」
と言うと、偶然にも、S氏が苫小牧出身だということが
判明。
「両親が苫小牧で和菓子屋をしている」
と仰ったので、場所を聞いてみると、
どうも『カプリス』の
すぐ側のようでした。
「来年、苫小牧に行った時に、
訪ねてみようかな」
と、盛り上がって別れました。
☆☆☆☆
その翌年、もちろん、
『カプリス』近くの和菓子屋を探してみました。
『マロンド湖月』…という看板を見つけたものの、
入ろうか入るまいか、
悩みました。
お店の名前を聞いていなかったので、
いまいち自信がなかったのですが、
他にそれらしいお店もなかったので、
意を決して、入ってみました。
「いらっしゃいませ」
と出迎えてくれたのは、優しそうな笑顔のお父さん。
ドキドキしながら、
声をかけてみました。
「初めまして。
ちょっとお尋ねしますが、
東京に息子さんはいらっしゃいますか?」
…なんと、
怪しい質問の仕方でしょう… @_@
お父さんから、一瞬にして笑顔が消え、
身構えているのが、わかりました。
「いえ、いません」
と、きっぱり言われ、
私は、それ以上、質問する勇気がなく、
「あ…そうですか…では、多分、私の
勘違いです…すみません」
とシドロモドロになりながら、
急いでおまんじゅうを買って、
お店を出ようとしたんです。
会計をしてもらっている時、
お父さんが、
「神奈川になら、おりますが…」
と、ボソッと仰いました。
神奈川の息子さん…は、
S氏のことでした。
いきさつをお話すると、
中からお母さんも出ていらして、
「そう言えば、去年、息子が
何やらそんなことを電話で伝えてきました」
と、一件落着 ^-^
すると、お父さんが、
「まあまあ、上がって行ってください」
とお宅に招いてくださるではありませんか!?
さすがに、そこまで厚かましくはできないので、
丁重にお断りすると、
おまんじゅうとお茶を、店先でご馳走してくださいました。
(あ、充分、厚かましい????)
☆☆☆☆
翌年、お土産を持って、
『マロンド湖月』を訪ねました。
「いやぁ、よく来てくれたね。
さぁさぁ、どうぞ、汚いところですが、
時間があるなら、是非、
上がっていって、お茶でも召し上がってってください」
お断りしても、お断りしても、
お父さんとお母さんがそう仰ってくださるので、
図々しく、家に上がりこんじゃいました @_@
お父さんの作ったおまんじゅうを
3つもご馳走になった上に、
お母さんのお手製・肉じゃがまで
食べさせていただいちゃったんです。
なんというか…
実家に戻った気分でした。
☆☆☆☆
数日後に、お二人で、
お手製ケーキを持って『カプリス』に
聴きにいらしてくださったのですが、
息子さんのS氏は、私と同学年なので、
私にとっても、
お父さんとお母さん…のような気がしてきました。
☆☆☆☆
今年の1月にも、
『マロンド湖月』を訪ねたのですが、
その時、お父さんが、
「この3月で、店を閉めるのさ…」
と、教えてくれました。
39年続けてきたお店を閉めるのは、
残念だけど、歳もとってしまったし、
仕方ないのさ…と、お父さん。
(閉店の折、
新聞2紙で取り上げられたのですって)

お店のある場所は売りに出して、
引っ越すことも教えてくれました。
「ここからは遠くなってしまうけれど、
家を建てるから、今度はそこに遊びにおいで、
あみちゃん。
お父さんちは、ポチのうち…ってくらい
小さいけれどね」
と、お父さんとお母さんに言われていたので、
先日、新居にお邪魔してきたんです。
☆☆☆☆
前日に、バスの時間をわざわざ調べてくださった
お父さん。
ホテル前のバス停から、
30分ちょい…の距離だそう。
土地勘がまるでないので、
無事に辿り着けるか不安だったけれど、
バスが着く時刻に、
バス停まで迎えに行くから、ということで
ひと安心。
当日の朝、私が起きられるか、
不安だったらしく、お父さんは、
モーニングコールまでしてくれました。
朝、指定通りのバスに乗って、
のんびりバスの旅。
しばらくして、お父さんから
電話がかかってきました。
「どうしたの、あみちゃん!?
どこにいるの????」
「今、☆☆☆という停留所だよ〜(心配しなくても、
もうすぐ着くよ〜…という感じの口調で)」
と、小声で話すと、
「すぐに降りて!今、すぐ降りて!」
と、電話の向こうで、
大慌てのお父さん。
なんとまぁ…
私は、ボ〜ッとしていたらしく、
指定されたバス停の2つ先まで
行ってしまっていたのでありました!
バスが停まらず、目の前を素通りしたので、
お父さんは、
「はて、あみちゃんは一体、
どのバスに乗ってしまったんだろう?
一番後ろの座席に似ている人がいたけれど、
髪型が違うし…」
と、心配になって、電話してきてくれたのでした。
☆☆☆☆
余談だけれど、
翌日、歌人の琴絵ちゃんちを訪ねましたが、
偶然にも、行き過ぎた、そのバス停が
最寄りのバス停でした。
これって、運命?
☆☆☆☆
バス停2つ分を、自転車のお父さんと散歩。
「後ろに乗りなさい」
と勧めてもらったけれど、
重たい私なんか乗ったら、お父さんがヨロけちゃう。
痩せたいから、歩くよ…と、
自転車に合わせて、早歩き。
ほんの少し、色づいている森の側を通った時、
「あれは漆だから、近づいちゃダメだよ」
と教えてもらいました。
聞いててよかった☆
知らなかったら、「わぁ、綺麗〜」と近寄って、
かぶれたに違いありません。
☆☆☆☆
20分ほどして帰宅した我々を、
「どこに行ったかと思った」と不安そうに
お母さんが出迎えてくれました。
「ポチの家」とお二人が言う新居は、
部屋がいっぱい。
日当たりもいいし、お庭もあるし、
素敵なお宅でしたよん☆
2階には、全然戻ってきてない…というS氏の
子供の頃の写真が飾ってありました。
S氏から電話がくるのは、
年に2〜3回だそう。
そのうちの2回は、
「あみちゃんが、苫小牧に行くから」
という連絡だそう。
私も、ウェスティンホテルでの仕事以来、
一度もS氏にはお会いしていないのですが、
苫小牧に行く前には、いつも必ず
メールでご連絡させてもらってるんです。
で、行った後は、
お父さんたちの写真を、S氏にメールで
お送りして、ご報告させてもらってます。
不思議だけれど、S氏よりも、私の方が
お父さんたちにお会いしているんですね!?
☆☆☆☆
お父さんは、家で作った、という
秋の和菓子をご馳走してくださいました。

とうもろこしやら、メロンやら、かぼちゃやら…
後から後から、ご馳走が出てきます。
「後で、お昼ご飯を食べに行くからね」と言われていたので、
「これ以上食べたら、ご飯が入らなくなってしまうよ〜」
と言う私に、
「大丈夫、大丈夫 ^-^
太らない物ばっかりだから」とお母さん。
更にいろんな物がテーブルに並んじゃった。
☆☆☆☆
持参したCDを、すぐにデッキに入れて
かけてくれたはいいけれど、
デッキの調子がいまひとつで、
誰かが、側を歩く度に、音が飛んじゃうので、
みんなで大笑い。
「優しい声だもんねぇ…いいねぇ…
前のCDも、お父さん、ず〜っと聴いてたんだよ」
とお母さん。
☆☆☆☆
お父さんが三脚を探してきて、
3人で、セルフタイマーで記念撮影♪
なんだか、お宅訪問の番組みたい。
☆☆☆☆
「あみちゃん、自転車に乗れるかい?」
…というワケで、3人で自転車に乗って、
お寿司を食べに。
「東京の歌手さんを、自転車なんかに
乗せてしまって、悪いね、悪いね…」
と謝るお母さん。
なんもだ、お母さん ^-^
前にも後ろにもカゴが付いてて、
荷物の多い私には、ピッタリだよ♪
おかげで楽ちんだったよ!
その後、温泉に行って、
お母さんと一緒に、露天風呂 ^-^
「あみちゃん、背中流してやろうか?」
と、お母さん。
「大丈夫だよ」とお断りしちゃったけれど、
私が流してあげればよかったな…と、
後でちょっと後悔。
☆☆☆☆
お風呂から出た後は、
イオンで、3人でソフトクリーム。
「太るから食べない」
と言ったんだけど、
「大丈夫だ、大丈夫」と押し切られ(?)、
ペロッと食べちゃったよ +_+
☆☆☆☆
帰りのバス停まで、二人で見送りに来てくれたのだけれど、
バスの発車まで、15分くらいあったのに、
ずっと外のベンチで待っててくれたの。
なので、白い紙に、
大きく、
「ありがとう」
と書いて、窓越しに筆談。
はにかみながら、大きく頷く二人に、
もう一度、
「身体に気をつけて」
と、筆談。
もう一度、大きく頷く二人。

☆☆☆☆
バスが見えなくなるまで、
見送ってくれていた二人の姿は、
その日の温泉ぐらい…
その日の夕焼け色ぐらい…
私の心をあったかくしてくれました。
☆☆☆☆
今夜、早い時間に、
突然、お父さんとお母さんが
『カプリス』にいらしてくださいました。
「あれ〜!どうしたの?」
と言うと、
「驚かせようと思ったから、連絡しないで来たんだ」と
恥ずかしそうに笑うお母さん。
☆☆☆☆
「孫たちがね、なかなか寝付かないもんだから、
あみちゃんのCDを聴かせてあげようと思うんだ」
と、3枚も買ってくださったお二人。
「なかなか寝ないから、あみちゃんのCDを…」
という辺りが、ちょっと可笑しかったけれど、
嬉しい♪
☆☆☆☆
「バスの時間があるから、
きょうは1回しか聴いていけないんだ…」
と仰るので、ステージの時間には
ちょっと早かったのだけれど、
せっかくいらしてくださったお二人だけの為の
ステージをすることに ^-^
「贅沢なことだ、いやぁ、嬉しいよ〜」
と、大喜びのお父さん。
ステージから、お二人の姿を見ると、
なんとなく、岡山の両親と祖母の姿が
ダブってきました。
渾身のステージ…というと、
大袈裟だけれど、
ステージに立った瞬間に、
胸が熱くなっちゃった。
☆☆☆☆
歌っていたら、お父さんが
何度も眼鏡をハズして、
ハンカチで目を押さえていたので、
危うく、もらい泣きするところでした。
帰る時、
「今度来た時も、きっと寄ってね。
本当は泊まれるといいんだけれど」
と言ってくれたお母さん。
12月は、時間がないから無理だと思うけれど、
来年、『カプリス』に来られたら、
またきっと、遊びに行くね。
苫小牧って、
やっぱり、故郷みたい。